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  名句に学ぶ
  季語は、五・七・五の十七音とともに俳句の基本ルールだといわれています。しかし、季語ははいっておればよいというものではありません。
季語は一句の全体に影響し、テーマを包み込むものです。言い換えれば内容の根幹をなすものと言えます。また、季語は単なる言葉ではありません。日本人が長い歴史と伝統の中に培ってきた、共通の感情をはらんだ言葉です。季語があるからこそ作者と読者のコミニュケーションが容易になり、句の鑑賞が豊かなものになるのです。
したがって、名句を作るためには、季語の背後にひそむ(季感)そのものを深く理解するとともに、直接的な感覚・感受性として身につけることが大切です。と、俳人鷹羽狩行先生はいっています。

●名句と季語

耕せばうごき憩へばしづかな土   中村草田男なかむらくさたお
夜は月の暈の大きく水温む      岡本 眸おかもとひとみ
水ぬるむ主婦のよろこび口に出て  山口波津女やまぐちはつじょ
うぐいすの匂うがごときのど仏   橋本夢道はしもとむどう
恋猫の恋する猫で押し通す      永田耕衣ながたこうい
恋猫の皿舐めてすぐ鳴きにゆく   加藤楸邨かとうしゅうそん
恋猫の身も世もあらず啼きにけり  安住 敦あずみあつし
山国の暗すさまじや猫の恋      原 石鼎はらせきてい
一枚の餅のごとくに雪残る      川端茅舎かわばたぼうしゃ
雪国の雪もちよぼちよぼ残りけり 一 茶いっさ
雪とけて村一ぱいの子ども哉     一 茶
にぎわしき雪解雫の伽藍かな     阿波野青畝あわのせいほ
春山を出でくる川に堰いくつ     大野林火おおのりんか
紅梅のマンを持しをる蕾かな     下村梅子しもむらうめこ
剪りて置く紅梅一枝片袖めく     野沢節子のざわせつこ
白梅の花に蕾に枝走る          倉田紘文くらたこうぶん
麗しき春の七曜またはじまる     山口誓子やまぐちせいし
すみれ踏みしなやかに行く牛の足  秋本不死男あきもとふじお
春水と行くを止むれば流れ去る   山口誓子
大いなる春日の翼垂れてあり     鈴木花蓑すずきはなみの
春の日やポストのペンキ地まで塗る 山口誓子
紺絣春月重く出でしかな        飯田龍太いいだりゅうた
春の水わが歩みよりやゝはやし    谷野予志たにのよし
仕る手に笛もなし古雛         松本たかし
夜々おそくもどりて今宵雛あらぬ  大島民郎おおしまたみろう
一輪の椿に重さありにけり      上野章子うえのあきこ
椿落つ樹下に余白のまだありて    神蔵 器かみくらうつわ
永き日のにはとり柵越えにけり    芝 不器男しばふきお
うら門のひとりでにあく日永かな  一 茶
方丈の大庇より春の蝶         高野素十たかのすじゅう
あおあおと空を残して蝶別れ    大野林火




辛崎の松は花より朧にて        芭 蕉ばしょう
風呂の戸にせまりて谷の朧かな    原 石鼎
磯遊び二つの島のつづきをり     高浜虚子たかはまきょし
紅き岩みどりの礁磯遊び       富安風生とみやすふうせい
靴置きし岩はるかなり磯遊      野村多賀子のむらたかこ
プラタナス夜もみどりなる夏は来ぬ 石田波郷いしだはきょう
おそるべき君等の乳房夏来る     西東三鬼さいとうさんき
甲板に羽毛立夏の落としもの     秋本不死男あきもとふじお
子の髪の風に流るる五月来ぬ     大野林火
折りし皮ひとりで開く柏餅      山口誓子
葉桜の中の無数の空さわぐ      篠原 梵しのはらぼん
牡丹百二百三百門一つ         阿波野青畝あわのせいほ
押さえてもふくらむ封書風薫る   八染藍子やそめあいこ
麦秋の大きな家に病みにけり     松沢鍬江まつざわしゅうこう
バラ散るや己がくずれし音の中    中村汀女なかむらていじょ
石階を上がり第二の薔薇の園     橋本美代子はしもとみよこ
手の薔薇に蜂来れば我王の如し    中村草田男
五月雨をあつめて早し最上川     芭 蕉
蛍籠昏ければ揺り炎えたたす     橋本多佳子はしもとたかこ
念力のゆるめば死ぬる大暑かな    村上鬼城むらかみきじょう
夏草に機罐(関)車の車輪来て止る   山口誓子
谺して山ほととぎすほしいまま    杉田久女すぎたひさじょ
塩田に百日筋目つけ通し        沢木欣一さわききんいち
故郷の電車今も西日に頭振る     平畑静塔ひらはたせいとう
おくれ来し吾に西日の席ありぬ    内野うちのたくま
西日中電車のどこか掴みて居り    石田波郷うちだはきょう
洗ひ髪夜空の如く美しや        上野 泰うえのやすし
せつせつと眼まで濡らして髪洗ふ   野澤節子
一本の樹のしみじみと蝉鳴けり    山口誓子
身に貯へん全山の蝉の声         西東三鬼






秋立つや川瀬にまじる風の音      飯田蛇笏いいだだこつ
四五人にツキ落かゝるをどり哉    蕪 村ぶそん
終戦日妻子入れむと風呂洗ふ     秋本不死男あきもとふじお
爽やかやたてがみを振り尾をさばき 山口誓子
秋の航一大紺円盤の中          中村草田男
芋の露連山影を正しうす        飯田蛇笏
晴天やコスモスの影撒きちらし     鈴木花蓑
とどまればあたりにふゆる蜻蛉かな  中村汀女
樽前に日は落ちてゆく花野かな    山口青邨やまぐちせいそん
栗飯のまつたき栗にめぐりあふ    日野草城ひのそうじょう
引際の白を尽くして葉月潮       岡本 眸
秋晴の何処かに杖を忘れけり      松本たかし
落鮎や流るる雲に堰はなく       鷹羽狩行たかはしゅぎょう
松手入せし家あらん闇にほふ      中村草田男
秋の暮水中もまた暗くなる       山口誓子
あはれ子の夜寒の床の引けば寄る   中村汀女
また一人遠くの蘆を刈りはじむ    高野素十
よろこべばしきりに落つる木の実かな 富安風生

















冬・新年
玉の如き小春日和を授かりし     松本たかし
大仏の冬日は山に移りけり       星野立子ほしのたつこ
帰り花きらりと人を引きとどめ    皆吉爽雨みなよしそうう
蓮根堀モーゼの杖を掴み出す     鷹羽狩行
蓮堀りが手もておのれの脚を抜く   西東三鬼
鳥も稀の冬の泉の青水輪        大野林火
鷹のつらきびしく老いて哀れなり   村上鬼城
木の葉ふりやまずいそぐないそぐなよ  加藤楸邨
しぐるるや駅に西口東口        安住 敦
斧入れて香におどろくや冬木立    蕪 村
冬の水一枝の影も欺かず        中村草田男
蟷螂の眼の中までも枯れ尽す     山口誓子
良寛の手鞠の如くひたき来し       川端茅舎
冬の日や臥して見あぐる琴の丈    野澤節子のざわせつこ
海に鴨発砲直前かも知れず      山口誓子
山陰を日暮とおもひ浮寝鳥      鷹羽狩行
枯野はも縁の下までつづきおり   久保田万太郎
土手を外れ枯野の犬となりゆけり  山口誓子
旅に病で夢は枯野をかけ廻る     芭 蕉
初夢の扇ひろげしところまで      後藤夜半ごとうやはん
初夢を話しいる間に忘れけり      星野立子
正月の子供に成て見たきかな     一 茶
ましろなる筆の命毛初硯        富安風生
福寿草家族のごとくかたまれり    福田蓼汀ふくだりょうてい
日の障子太鼓の如し福寿草       松本たかし
松過ぎてなほ賀状来る賀状出す    山口波津女
大寒の一戸もかくれなき故郷     飯田龍太いいだりゅうた
限りなく降る雪何をもたらすや    西東三鬼
奥白根かの世の雪をかがやかす    前田普羅まえだふら
大寒と敵のごとく対ひたり       富安風生
大寒や転びて諸手つく悲しさ       西東三鬼
大寒の牛や牽かれて動き出す      谷野予志たにのよし
丹頂の相寄らずして凍てにけり     阿波野青畝
凍鶴の思ひの外にわれ立てり      鷹羽狩行

このページの選句と趣旨は
  鷹羽狩行著 俳句入学(NHK出版)より引用

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